「リンベル公式オンラインストア」「婦人画報のお取り寄せ 公式EC サイト」「GIFT LIST」の3つのEC サイトを運営するカタログギフト大手のリンベル。
「新規のお客さまを増やしたい」という課題を「決済」というアプローチからEC サイトの買い物体験を改善し、新規会員獲得の増加に成功した。売上規模900 億円超のリンベルを課題解決に導いたアプローチの詳細を、執行役員 営業本部 EC 統括部 本部長 大川和弘氏と、経営戦略本部 広報部 チーフ 秀平真弓氏に取材した。
ギフトにまつわる3つのECサイト運営
カタログギフトの企画・制作・販売で知られるリンベルの創業は1987 年。最近では、カタログギフトで培ったメーカーとのつながりや自前の物流網を生かし、オリジナルブランドの商品開発、オリジナルブランド商品を用いたふるさと納税関連事業も展開。
また、企業の株主優待、クレジットカードのポイント交換で使われるカタログギフト提供など、主軸のカタログギフト事業で構築してきたスキームを活用し、さまざまなビジネスを手がけ、現在は「リンベル公式オンラインストア」「婦人画報のお取り寄せ 公式EC サイト」「GIFT LIST」(ギフトリフト)の3 つのEC サイトで「Amazon Pay」を導入している。
デジタルでオリジナルのカタログギフトが作れる「GIFT LIST」
従来型のカタログギフトビジネスを展開する環境下で、SNS の普及やDX 化によって加速しているのが「ソーシャルギフト」。需要が伸びている「ソーシャルギフト」に対応するため2024年6 月、ユーザーがオリジナルのデジタルカタログギフトを作って贈れるデジタルギフトサービス「GIFT LIST」の提供を始めた。
「GIFT LIST」とは、幅広いジャンルの商品から自由にアイテムを選んでデジタルカタログギフト(ギフトリスト)を作り、そのURL をSNSやメールで相手に贈ることができる仕組み。送り先の住所を知らなくてもギフトを贈ることが可能で、受取相手はURL からギフトを受け取ることができる、「ソーシャルギフト」サービスだ。Amazon Pay の「Pay Only 機能」で決済をシンプルな決済フローを実現している。
以前は紙のカタログギフトをオリジナルで作れるサービスを展開していたが、紙のカタログギフトを個々で作れるサービスはコストの面でもハードルが高かったが、カタログギフトを贈る側の思いが込められるサービスを求める声は寄せられ続けていた。特に法人顧客からは「表紙を変えたい」「『GIFT LIST』掲載商品を自社の独自ギフトとして展開したい」など、オリジナル性を表現したいニーズがあった。
「GIFT LIST」の仕組みができたことで、リンベル側でも簡単かつ短時間でデジタルのカタログギフトが作れるようになり、BtoC、BtoB双方の「自分で商品を組み合わせたカタログギフトを贈りたい」という需要に対応できるようになった。
顧客数拡大に向けて「Amazon Pay」を導入、新規顧客の獲得に大きく貢献
一般の通販サイト、デジタルギフトサイトの立ち上げなどEC ビジネスは順調に見えるが、課題も抱えていた。それは、「リンベル公式オンラインストア」の新規顧客の獲得を通じた「お客さまの母数をより増やしたい」という課題だった。
そこで着目したのが、Amazon が提供するID決済サービス「Amazon Pay」だ。ギフトECは熨斗(のし)やメッセージカード、相手先の住所など、入力する項目が一般的なEC に比べて多い。そのため、Amazon アカウントに登録されている配送先住所や支払い情報を用いてユーザーの入力する負担を極力削減したいという狙いもあった。「リンベル公式オンラインストア」では2017年5 月に「Amazon Pay」を導入、すぐに成果が表れた。そのため、「婦人画報のお取り寄せ」にも「Amazon Pay」を導入し、新設した「GIFT LIST」でも実装している。
大川氏:「リンベル公式オンラインストア」の決済手段全体のうち、「Amazon Pay」の利用率はクレジットカードに次いで2 番目に多くなっています。2024 年1月以降の集計では、件数ベースで決済全体のうちの17 % を「Amazon Pay」が占めていました。「GIFT LIST」は導入してからあまり時間が経過していませんが、「Amazon Pay」の利用率は件数ベースで約25%に達しています。
「Amazon Pay」はAmazon アカウントに登録された配送先住所や支払い情報を用いて新規会員登録ができるほか、(後述するCV2 では)Amazon アカウントの配送先に会社や実家などギフトの届け先が登録されていれば、ギフトの送り先の指定も入力の手間なく手続きを完了できるため、ユーザーの利便性が向上。それが現在の成果につながっているという。
そして、抱えていた新規顧客の獲得という課題はどのように解決されたのだろうか?
「『Amazon Pay』利用者の新規会員登録率は通常の会員登録に比べて6 倍高く、新規顧客の獲得に大きく貢献してくれました。また、「Amazon Pay」経由で商品をカートに入れたユーザーの83%が購入完了に至っており、その他の決済手段を数倍も上回る数値をたたき出していることに驚いています」(大川氏)
「Amazon Pay」最新バージョンで複数住所指定に対応
「リンベル公式オンラインストア」は2023 年、「Amazon Pay」を従来のCV1 から新バージョンのCV2 ※1 に切り替えた。CV2 には、ギフトEC で重要な複数住所選択機能(ギフティング機能)が搭載されており、Amazon アカウントに登録されている住所を配送先に複数選択することが可能。かつ、住所ごとに商品の選択もできる。「リンベル公式オンラインストア」は世界で初めて「Amazon Pay」のギフティング機能を導入したEC 事業者となった。
CV2 への切り替えで、複数住所指定機能のほかにも細部にわたりユーザビリティが向上。これにより、コンバージョン率はCV2 への切り替え前と比べて約10%向上。「CV2 はセキュリ
ティがCV1 よりもさらに強化されているため、導入企業としての安心感も高い」とリンベルは評価している。
再オーソリ機能で予約商品も買いやすい仕様に
「婦人画報のお取り寄せ」も2023 年にCV2へ切り替えた。おせちの予約販売が好評な「婦人画報のお取り寄せ」にとって、CV2 の再オーソリ機能※2 が有効に働いている。
おせちは例年8 月末~9 月頭頃から予約販売を開始しているため、年末の出荷までには最長4 か月かかる。一般的なクレジットカードと同様に、「Amazon Pay」も通常は与信保持期間を30 日としているが、CV2 で予約販売向けに展開する再オーソリ機能を実装すれば、注文から出荷までに30 日超を要する受注も、再度与信を取り直すことで対応できるようになる。再オーソリ機能により、おせちやその他の予約商品でも「Amazon Pay」の利用は拡大している。
※1……CV2実装のECサイトではAmazon側で表示するページ上で「配送先住所」「支払い方法」を、確認(または変更)する購入フローに統一。また、「Amazon Pay」のUIに関するエラーメッセージも統一した内容を案内することで、購入者がどのECサイトで購入した際にも同じUXを提供できるようにしている。
※2……リンベルはAmazon Payパートナーであるecbeingが標準実装している再オーソリ機能を適用している。再度与信を取り直すことで、与信期間を延長する。「Amazon Pay」の通常の与信保持期間は30日だが、再オーソリ機能によって再度与信を取り直すことにより、180日まで延ばすことができる。180日を過ぎる商品を取り扱っている場合には別途設定によって最大13か月まで延長できる。このため、再オーソリ機能は予約限定商品やメーカー発注品などの取りこぼし防止、代金引換による受け取り拒否と送料のリスク回避につながる。
Amazonが主催するキャンペーンとの相乗効果
Amazon は「Amazon Pay」のユーザー向けに、年間を通してさまざまなキャンペーンを主催している。「『Amazon Pay』は単なる決済手段ではない。マーケティングツールだ」と多く
のEC 事業者が声をそろえる「Amazon Pay」独自のマーケティング機能だ。
リンベルも、Amazon Pay が主催するキャンペーンに積極的に参加。「Amazon ギフトカード大還元祭」に加え、これまでに、おせち商品の予約の促進に「Amazon Pay」で予約した人限定で「Amazon ギフトカード」をプレゼントする施策で特に高い効果が表れた。おせちは「婦人画報のお取り寄せ」で最も売り上げ規模の大きなジャンルであり、売り上げが前年比で110%へ押し上げられたという。 また、この時のキャンペーンでは、「婦人画報のお取り寄せ」において9 月からのおせちの予約で「Amazon Pay」を利用したユーザーを対象に、1 人あたり3000 円分の「Amazon ギフトカード」を抽選で100 人にプレゼントするという独自のキャンペーンも実施した。
大川氏:近年の市況では集客・販促費が年々高騰しているため、リンベルも従来通りの施策だけに頼っていては集客数を伸ばすことが難しいと捉えています。そんななか、Amazon 主催のキャンペーンに参加して新規ユーザーが集客できていることは大変ありがたいこと。「Amazon Pay」のキャンペーンに参加する際は、リンベルからお客さまにメールで案内もしていますが、「Amazon Pay」のサイトでも案内をしていただいているので、既存のお客さま以上に新規のお客さまからも多く購入していただいています。
「Amazon Pay」でさらなる利便性アップを計画
リンベルは現在、「リンベル公式オンラインストア」「婦人画報のお取り寄せ」「GIFT LIST」の3 サイトの顧客ID 統合に向けて動き始めている。顧客ID を統合した先には、「GIFT LIST」と物理的に商品を配送する他の2 サイトと合わせて、住所情報を連携していく方向で考えている。
このほか、カタログギフトは受け取った人が商品を選んで注文する仕組みであるため、「カ
タログギフトを受け取った人もAmazon のアカウントを用いて簡単に注文できるようになれば便利かもしれない」(大川氏)と提案。今後の「Amazon Pay」のさらなる機能の進展にも期待を寄せている。
秀平氏:リンベルは「ギフトで世の中を良くしていきたい」という考えの下、事業を展開しています。ギフトを贈り合うことで、今までより新しいコミュニケーションが取れるようになったり、今まで付き合っていた人ともより深い絆が作れたりしますよね。昨今は社内のバレンタインプレゼントを禁止したり、企業間のお中元・お歳暮の贈答を控えたりするような風潮がありますが、リンベルはできればもっと人と人とがギフトを贈り合ってほしいと願っています。ギフトを贈っていただける機会を増やすため、今後もより良い商品をラインアップするよう努めていきます。
※株式会社リンベル https://www.ringbell.co.jp/
※ 株式会社インプレス 「ネットショップ担当者フォーラム」掲載記事(2024年9月24日配信)を再編
※データは全てリンベル株式会社自社調査による(2024年7月)
写真:吉田浩章